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  • ヴィク・フィッシュ社本社加工工場の、パーチを三枚におろす工程・・ベルトコンベアの右側で三枚におろし、左側で皮を剥ぐ。ベルトコンベアでは中骨などの不要部分が運ばれて行くが、これも別途製品に加工される。

    日本のあなたも食べている
    ヴィクトリア湖のナイルパーチ


    魚の搬入口の方向から見たヴィク・フィッシュ社本社加工工場の外観

    見学客は、工場に入る前に体を清潔にする必要がある。

    搬入されたパーチは、まずシャワーを浴びてから、丁寧に洗浄される。

    三枚おろしの工程の後、魚肉に異物が残っていないか計器でチェック。

    駅弁の焼き魚や給食のフライなどにヴィクトリア湖で獲れるナイルパーチ(スワヒリ語ではサンガラSangara)が使われている、魚の切り身の冷凍は金額で言うと日本のタンザニアからの輸入品目の中でも金、コーヒー、タバコに次いで4番目で年間9億円ほどに上る(2008年)と聞いていたので、ムワンザに行ったついでに、ナイルパーチの加工工場の一つを訪ねてみた。

    ナイルパーチは、白身の淡水魚で、最大2メートル200キロにもなると言われる。ヴィクトリア湖で商業的に捕獲される魚はナイルパーチ、ティラピア、ダガーの三種で、量的には2、2、6の割合だが、ナイルパーチは輸出用の高級魚として、単なる漁獲高以上の経済的付加価値を生み出している。ナイルパーチは、ヴィクトリア湖の固有種を絶滅のふちに追いやった環境破壊者だと環境論者に批判されている一方で、一人当たりGDPが600ドルにも満たない最貧国のタンザニアで直接間接に約300万人の生活を支える重要な役割を果たしているのだ。ところが、ナイルパーチが金になるということで密漁乱獲がたたり、2000年代の半ばをピークに漁獲は大幅に減っており、ナイルパーチ自体が絶滅しそうだという危惧が持たれているこの頃だ。

    ヴィク・フィッシュ社(Vicfish LTD)は、ムワンザ州にある6社のナイルパーチ加工会社のうちでは一番の老舗で1992年6月に設立された。現在は、毎日ムワンザの本社工場で30トン、ヴィクトリア湖の西岸にあるブコバの加工場で15トン、合わせて45トンほどのナイルパーチを加工しており、約650人を雇用している。工場は年中無休で稼働しているということで、年間にすると約1.6万トンのナイルパーチを加工している計算になる。

    加工したパーチの6割はチルド4割は冷凍で出荷される。チルドは全量EU諸国向けで、冷凍はEUの他に中東、米国、日本などに出荷されている。チルドの最大の輸出先はスペインで全体の7割を占め、他にオランダ、ドイツ、イタリアなどが主な輸出先になっている。スペインは、明らかに、バカラオとして伝統的に利用してきた北海のタラの生産が激減したため、その代替としてナイルパーチが使われるようになったと思われる。

    ヴィク・フィッシュ社の冷凍品の仕向け先は、その大半が中東で、日本向けは4分の1程度という。日本の取引先はShinto Co.の一社だけだ。日本向けの製品の大半は皮付き(上の写真)なのが他の国と異なると言う。白身魚の焼き物などに使われているのだろう。

    近年ナイルパーチの水揚げが大きく減少したことは、ヴィク・フィッシュ社の生産にも影響を及ぼしており、ブコバの工場が営業を始めた2005年頃には毎日の処理量80トン、1200人の従業員を抱えていたのが、今では、先に数字を示したように、処理量も従業員数もピーク時から半減している。もっとも、ごく最近になって、網目規制などをしたために水揚げは若干改善している、という説明だった。現在程度の水揚げ量であれば長期にわたってナイルパーチの資源維持は可能で、その場合、ヴィク・フィッシュ社は日量50トンのレベルの加工量で安定的に経営が続けて行ける、というのがヴィク・フィッシュ社のブハガート社長の考えだ。


    ヴィク・フィッシュ社が加工するナイルパーチは、アフリカ最大の湖で白ナイル川の水源であるヴィクトリア湖で育つ。ムワンザの町は、ヴィクトリア湖から大きく南に入り込んだ入江の東岸にできており、ヴィク社は町の南にある。この写真は入江の入口付近を写したもので、町はこの右側の先、ヴィク社は左側の先にある。。

    冷凍用のパッケージに包装する。

    消費者の目には触れる機会は少ないと思うが、これが日本向けのパッケージ。

    こちらはデンマークのスーパー用のパッケージ。家庭で直ぐ調理できるような大きさにカットされている。

    これについては、2月5日付のガーディアンというタンザニアの英字紙に、ナイルパーチ資源の維持について、政府のやる気のなさを強く非難する記事が出ていた。そこで、ムワンザの州知事以下漁業関係者に聞くと、一様に政府は大変努力をしていると説明しつつ、特にパーチの加工会社を通じて総量規制をすることに意欲を示していた。これに対し、ブハガート社長は会社まで持ってきたものをいくら撥ね付けても死んだ魚は生き返らない、違法操業をその現場でとらえるようにすることこそが効果的な対応策に不可欠だ、と主張する。

    加工業者がそう言って自社の利益を守ろうとするのは立場上理解できるが、問題は規制についてタンザニア、ケニア、ウガンダというヴィクトリア湖沿岸の三か国の足並みがそろわないことに加え、そもそもそれら沿岸国の取締り能力に大きな欠陥がありその早期改善の見通しが立たないことだ。規制すべきは違法操業者だと言うのは良いが、それは、何もするなと言うに等しい。

    ヴィク・フィッシュ社の社長もそうだが、加工工場を持つ会社の社長はインド系が占めている。ナイルパーチの漁獲が落ちて一番被害をこうむる人たちがインド系だということも政府側の熱が不足している理由だとガーディアンの記事は示唆していた。ヴィクトリア湖のナイルパーチの将来は、簡単ではない。

    規模は一時に比べて半減したとは言え、工場を見せてもらうと、大変活気がある。特にパーチを三枚におろして、骨を取り皮を剥ぎ、梱包するという一連の作業を行っている部屋は、100人以上の作業員が息つく間もなくパーチの加工に携わっていた。

    パーチを見ると、なるほど1メートルを超えるような大きなものは稀だ。50センチ以下については撥ねる(政府の規制は0.5キロという重量規制と理解していたが、ここでは長さでチェックしているという説明だった。)ということだが、その下限ぎりぎりの大きさの魚が多いように見える。

    他方、清潔さについては太鼓判を押せると思う。EUへの輸出が大半を占めるせいか、ヴィク・フィッシュ社の加工工場はEUの認証をきちんと獲得し、その定期的な検査に服しており、HACCPやISOの基準もきちんと満たしている。工場内の壁には、清潔な作業を心がけるよう沢山の標語が書かれていた。我々も、長靴、コート、帽子、マスクで体を覆い、きちんと洗剤で手を洗ってから、見学コースに向かうことが許された。

    梱包されたパーチは、日本などに輸出される冷凍品については急速冷凍処理され、大きな冷凍庫に保管される。その後、ムワンザからマイナス18度以下の冷凍コンテナでダルエスサラーム港まで運ばれ、そこから船でヨーロッパや日本まで運ばれることになる。

    ムワンザのメインストリートであるケニヤッタ・ロードとステーション・ロードの交差点にあるターンアバウトには、町のシンボルとしてナイルパーチの像が立っている。その口から水を噴出している姿を見ると、シンガポールの、オリジナルの小さいマーライオンに似ているような気がしてくる。皮肉なことに、この像が立ったのと時期を同じくしてナイルパーチの水揚げが激減して行った。像が、過去の栄華の記念碑にならなければ良いが、と思う。

    ムワンザの町に立つナイルパーチの像